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時計じかけのアンブレラ

第4章 それから

その日のことを俺はとても良く憶えている。

5人の楽屋で冠番組の撮り溜めがあって。
待ち時間にそれぞれが、ぼけ~っと自分の時間を過ごしていた。
俺はふと、映画の仕事が決まったことを、まだメンバーに報告してなかったことに気がついた。

新聞の上から顔を覗かせて全員を盗み見たが、何となく言い出しにくい。

上に伸ばしてた首を、またそーっと元の位置に移動させてから、俺はこそこそとメンバー用のLINEにメッセージを送った。

『そう言えば
映画決まりました
東野ミステリ
ラプラスの青江教授やります』

4人のスマホがそれぞれに、微妙な時間差でピコン!と鳴る。
ウチのメンバーは既読スルーが得意だけど、内容は必ずみんな確認する。

「「「「…………。」」」」

誰も何も言わない。
画面を操作しているような雰囲気でもない。
俺は、待つともなく皆の反応を窺う。

「「「「…………。」」」」

おい。
長くね?

そう思った時、相葉君の声が聞こえた。

「…リーダー?大丈夫?」

え?

「大野さん、調子悪い?」

「どうした?気持ち悪い?」

ニノと松潤の声を聞いて、俺は慌てて立ち上がる。

ガタガタと音を立ててあちこちにぶつかりながら、智君の傍まで行った。
智君は両手で顔を覆って、俯いている。

「兄さん、どうした?」

隣にしゃがんで腕に触れながら話しかけると、智君は、何でもないって言うみたいに、首だけ何度か振って見せた。

「智君?」

下から見上げて呼びかけても返事がないから、俺は中腰の姿勢に変えて、手でそっと智君の髪を撫でた。

「…どした?」

ふわふわの頭頂部を見つめながら問いかけると。
智君は俯いたままの顔から手を外して、俺の腰の辺りに抱きついてきた。

「どうしたの?」

頭を撫でながら声を掛けたら、ようやく返事がある。

「しょおくん、あおえさんに…
青江さんに、なるの?」

「……?…そうだよ?…」

答えると俺の体に回された腕に力が入って。

「…しょおくん」

「うん」

「しょおくん」

「うん」

髪を撫でている俺にしがみついたまま、智君はメンバーが居るのにも構わずに、何度も俺を呼ぶ。

「わかってるよ…
俺も愛してる…」

智君が落ち着くまで、俺はただあの人の髪を撫でていた。





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