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男の友情・女の立場

第4章 犠牲

蛍光灯が全開で灯された音楽もないホテルの部屋で、美羽がフェラをするピチャピチャという音だけが広がっている。

美羽は大昔、卓也と知り合うもっともっと前に付き合っていた彼氏を裏切って浮気をしたことがあった。

そのときの、背徳心に苛まれながら違う男と寝たときの、言葉で表現できないどす黒い快感を感じたことを今でも覚えている。

自分と《本契約》をしている男とのセックスでは得られない、特別な快楽がそこにはあったのだった。



しかし、健太と今こうして行為に及んでいることに対して、あのときはまた違った奇妙さを感じている。

あのときの浮気には「裏切り」という確証があり、それを自覚することで後ろめたさが自分自身を維持することができたが、今回は違う。


裏切りではないし、自分の欲望に負けたわけでもない。

むしろ奉仕や自己犠牲の上に成り立った行為だった。

善悪では割り切れず、そして答えはどこにもなく、たった一人《被害者》がいるとすれば、おそらくそれは美羽一人なのかもしれない。


美羽はまるで遠い外国の日本の常識も価値観も通じない国へ放り込まれたような、気持ちの置き所のない無空間に漂い気がおかしくなりそうになった。
フェラをしている自分がこの場の空間に溶けていきそうが気分になり、怖くて口を離し、頭をもたげて健太の前で股を大きく開いた。

「早くしてよ!」

と、またつっけんどんな言い方で健太に告げる。

健太が美羽にクンニをしようとして顔を近づけた。

「そんなの止めて!!しなくていい!!」

美羽はこれまで以上の大声を上げ、健太を制しにらみつける。


健太はわけもわからず「ごめん、ごめん」と言うばかりだったが、そのとき美羽は卓也と今日のことについて話をした日の事を思い出した。

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