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僕はアノ音を聞いてしまった。

第6章 野田恭子

 最後の夏、中学一年生だった恭子の勉強部屋で二人は『お医者さんごっこ』をした。
 
「ねえ、チビ淳、私、少し眠くなっちゃった……」
 
 恭子はゴソゴソと布団に潜り込んだ。
 
 それはプールの代わりに入った内風呂で水浴びをしたあとだった。『水浴びをするときは水着を着ること』というのが子どもたちの約束で、終わった後は身体にタオルを巻いていた。
 
「うん……」
 
 淳也も恭子と同じ布団に潜り込んだ。恭子の勉強部屋にはエアコンはなかった。
 
 布団の中はムワッっとした空気ですぐに身体に汗が滲み始めた。真っ暗で掛け布団の足元から細い光が入っていた。
 
 まるで秘密基地のようだった。横にいる恭子の体温と石鹸の匂いを感じた。タオルを巻いた恭子の滑らかな身体のラインのシルエットがぼんやりと浮かび上がる。
 
「チビ淳ってさ、知ってる? 性交って……」
 
 恭子が呼吸だけの声で言った。
 
「セイコウ? 失敗と成功……」
 
 淳也は笑いを抑えた。

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