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僕はアノ音を聞いてしまった。

第6章 野田恭子

 恭子から身体を放す。にちゃりという粘り気を腹の辺りに感じた。そこに目をやる。固まりかけの卵白のような物体が、恭子の下腹から胸になみなみと溜まっていた。プールの消毒薬のような青臭い匂いが強くなった。
 
「お願い。放さないで。淳也……」
 
「でも……ノダキョー……」
 
 自分の身体を恭子から放し、汚してしまった彼女の身体を拭いたかった。
 
「いいの……このまま……ね?」
 
 筋肉のない恭子の腕が淳也の背に回り、引き寄せられた。水溜まりに足を浸したような音が静か恭子の勉強部屋に広がった。
 
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 その日から数日経った日の夕方、恭子がどこかに引っ越したとマサミから連絡があった。内容はよく憶えていないのだが彼女の両親が離婚したという話は覚えている。

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