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インターセックス

第11章 信頼

 常夜灯を眺めながら椎名さんが身の上話を聞かせてくれる。
椎名さんも壮絶な虐めに遭っていた。
椎名さんの父親は、小学生の時に亡くなりその後母に育てられた。
虐められても母親には、言えない。
一人で戦ってきたと言う。
「体操服をビリビリに破かれたり給食の中に何か入れられたり、そんな事は、しょっちゅうだったわ」
「そんな、ひどいことを…… 先生とかに言わなかったんですか?」私もそこまでされた事は、無い。
「言わないわ。先生も対応に困って直接生徒を叱るだけ。結局、更に陰湿になって見えない所で殴られるとか、別の子を私の前でいじめるとか。私のせいで別の子がリンチに掛けられるなんて、それは、残酷よ」
「ひどい。椎名さんは、それでも学校行ってたんですか?」
「そうね、私は、何をされても言い返さなかったし。仕返しもしたことがない。逆にあいつらは、そんな事しか出来ないあわれな奴らだと思っていたわ。私は、つまらない奴らに自分の人生を変えられたくなかったの。気にするだけバカバカしい。時間を奴らに奪われるだけだと。だから、より一層勉強したわ」
「す、すごい。すごいです。椎名さん。私なんか、逃げてばっかりで……」何だか壮絶な彼女に感動してしまった。
「で、川谷さんは、子供の頃どうだったの?」椎名さんが聞いてくる。
私は、返事に困った。話したい。でも話すことは、出来ない。
黙っている私。
「そう、無理に言わなくていいのよ。川谷さんも辛いことがあったのね。じゃあ、おやすみ」
それは、確固たる信念に貫かれ何者も彼女を貶める事ができない。
私は、彼女の強い信念に感動してしまった。
 バイトに来て良かった。人とのふれあいにこんなに感動させられる事があるのだと。

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