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女子高生香織の痴漢列車

第3章 囚われの

「でもさー、そろそろ学園祭準備の方もちょっとは忙しくなくなるんでしょ?」

 バスに揺られながら玲奈が聞いてくる。満席の車内で、座れなかった香織はつり革につかまっていた。そこまで手の届かない玲奈は手すりを掴んでいる。
 実は先週末にヤマを越えてからは仕事にかなりゆとりができていたのだが、そのことは口にせず尋ねる。

「うん、まあね。でもどうして? やっぱりさっきの話?」

「うーん、まあ今んとこあたししか気付けないようなビミョーさだけどさ、目元にうっすいクマできてるし。仕事多すぎて寝不足なんでしょ」

「はぁ、玲奈にはわかっちゃうかー。隠せると思ったんだけどねぇ」

 頭を振る香織。

「まったく、うちの男子どもはかおりんにいろいろ任せすぎなんだよ」

 とぷりぷりしている玲奈に、心の中で謝った。

(ごめんね、今のは半分ホントで半分ウソなんだ……)



 初めて痴漢に遭った翌日、香織はそれまでよりも早く家に帰れていた。学園祭の準備もひと段落して、放課後の居残らなければならない時間が大幅に減少したのだ。
 いつもより2時間ほど早く学校を出た香織は、空いている電車に乗って最寄り駅まで帰る。それから自宅の近所のスーパーに寄って夕飯の食材を購入すると、帰宅して玄関のドアを開けた。

「ただいまー」

 しんとした室内に消えていった香織の声に応えるものはなかった。

 日はすっかり沈んで、香織はシャワーを浴びて夕飯を作り、それを食べ終わった後で数学の勉強をしていた。
 昨日まで忙しかったせいで勉強がおろそかになっていたのだ。高校の先生たちは実行委員の忙しさを理解してくれているので宿題は免除されているが、それでも次回のテストの問題がみんなより易しくなるなどということはない。少しでも時間のあるうちになんとか追いついておきたかった。もっとも、香織は普段から真面目な優等生だったので、今までの範囲でいきなりテストを受けたとしても学年上位の点数をとるであろうことに変わりはなかったのだが。

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