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女子高生香織の痴漢列車

第3章 囚われの

「あ、あ、在賀さん……い、いや、香織ちゃん」

 男子生徒が口を開く。

「え、えっと、どこかで会いましたか?」

 相手を不審に思いながらも、下手に刺激しないように丁寧に聞き返す香織。
 しかし、それを聞いた男子生徒は訝しげに首を捻った。

「ぼ、僕だよ僕。渡邊、渡邊恒(わたなべわたる)だよ!」

 名乗られてもやっぱり覚えがない。
 けれどもそんな彼女に気付かず、恒はじりじりと香織ににじり寄った。

「ぼ、僕もねぇ、香織ちゃんのことが好きなんだよ……」

「え?」

「か、香織ちゃんも僕のことが好きだろう?」

 そう言って香織の手を握る。
 香織は手を振り払った。

「ちょっと、やめてください! それにあなたのことなんて知りません」

 それを聞いた恒は、ショックを受けたように硬直した。

「な、なな、何で。じゃあ何であの時財布を拾ってくれたんだ。にっこりと笑ってくれたじゃないか……」

 うわ言のように呟きながら香織へ近づいてくる。
 財布? ひょっとしていつかこの人が落とした財布でも拾って渡した事があるのだろうか。だったら渡すときに愛想笑いくらいするかも……。もしかしてこの人は今まで女の人と関わったことないの? そんな事で勘違いしちゃったわけ? 思い込みの激しいタイプって、面倒ごとにならなきゃいいけど……。
 近寄られた分だけ香織も後ずさるが、すぐに背中が閉店中のシャッターに当たってしまった。恒の息が荒くなっているのがわかる。

「か、香織ちゃん、香織ちゃん、香織ちゃん香織ちゃん香織ちゃん香織ちゃーん!」

 香織に向かって突進してくる。慌てて押し留めようとするが、男女の筋力差はどうにもならない。シャッターに押しつけられ、ガシャンと大きな音が鳴る。
 恒は目を瞑ると唇を突き出して香織に迫った。

「い、いやっ!」

 パシン! という音が響いて、気づけば香織は相手にビンタをかましていた。
 頬を押さえて倒れ込んだ恒が香織を睨む。その目に燃える憎悪の炎に、香織は思わず身がすくんだ。

「そ、そうか……。君も、僕を裏切るんだね……」

 まるで誰かに操られているかのように平坦な調子で恒が言葉を漏らす。

「こんな風には使いたくはなかったけれど、仕方がない」

 恒は下卑た笑みを浮かべながら、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、その画面を突きつけた。

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