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マックの女

第3章 病室で

 誠一がベッドに静かに目を閉じて寝ている。その傍らにゆかりが誠一の手を握って椅子に座っていた。ゆかりの目から涙がこぼれ、頬を伝わり顎から滴がスカートに落ちた。
誠一の体には6本の医療用チューブが、傍らの延命装置と繋がっていた。
 ゆかりが誠一の髪を撫でている。誠一は微動だにせず先ほどから横たわっている。
「誠一、また、春がやってきたわ。今年も桜が咲いたら見に行けるといいね」
 ゆかりが誠一の動かない唇を右手の人差し指でそっとなぞった。ゆかりの目には、誠一の唇がわずかに動いたように見えた。顔を近づけて、その唇を見つめたが動く気配はなかった。
 ウイーン、部屋のドアが開いた。白衣を着た主治医・村上が入ってきた。誠一の枕元に立つと、小さな懐中電灯を手に持ち、誠一の瞼を片手で広げ、懐中電灯の光を誠一の瞳に当ると静かにのぞき込んだ。
「大川さーん、聞こえますか?」
 何回か声を掛けた。が、反応することなど全くない。
「先生、どうでしょうか? 」
 ゆかりが消え入りそうな声で医師に声を掛けた。
「……三ヶ月経ちましたが、ある日、突然、目を覚ますということもあります。毎日、声掛けは続けてあげてください…… 」
「はい……」

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