テキストサイズ

カトレアの咲く季節

第7章 アレクとユナ ②

 アレクがユナにようやく会えたのは、収穫祭から1週間も経ったあとだった。
 長いこと熱に浮かされていたせいで頬はこけていたが、変わらずに愛らしい笑みを見せてくれたことに心底ホッとした。

「あぁ苦しかった。アレクはいつもあんな息苦しさを感じているのね、尊敬しちゃうわ」
 そんなことを言って、茶目っ気たっぷりに肩を竦めて見せたユナに、アレクは抱きついて回復を祝った。



 その年の終わりに父が亡くなり、ユナは花屋に勤めるために家を出た。
 アレクは成長して体が丈夫になってきたのだろう、滅多に熱を出さなくなった。
 そしてユナは、隠れて時々薬を飲むようになっていた。何の薬かは、何度訊いても教えてもらえない。

「体調を崩さないようにするためよ。寝込んでバーサさんにご迷惑をかけるわけにはいかないもの」
 表向きは健康そのもののユナは、アレクの問いを笑ってかわす。
 けれど動きすぎると息切れを起こし、夜通し働けば青白い顔になった。

 ユナを除いて、唯一薬の詳細を知っているだろう、薬屋のジンを訪ねても、元来寡黙なその男はアレクに何も語らなかった。

 だからアレクは定期的に花屋を訪れては、ユナの仕事ぶりを見張るようになったのだ。
 誰も、ユナを連れて行くものがいないように。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ