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カトレアの咲く季節

第3章 ライという名の少年

 薬屋に花輪を届けて帰ってくると、もう昼が近かった。

「ただいま、ライ。お留守番ご苦労様」
 ユナの声かけに、花屋の奥から人影が現れる。
 この国の者ではないと一目でわかる、金髪碧眼の美少年だ。

「お帰りなさい、ユナ。おやアレクも。久しぶりだね」
 まるで旧知の友のように自分の名を呼ぶ少年を、アレクは嫌な顔を隠そうともせずに見る。

「何だよ、ライいたのか。じゃあお前がお使いに出ればよかったじゃないか」
「生憎と僕は日差しが苦手なんだよ」
「ふんっ、そんなこと言って外に出ないからいつまでも生っ白いんだよ」

 アレクはいらいらと吐き捨てる。
 確かにライの肌は生まれたての赤ん坊のように真っ白で、日の下に晒すのを躊躇いたくなるほどだった。
 ライの話では、少しでも日に焼けると火傷のように真っ赤に爛れてしまうのだという。

(そんなバカなことあるもんか)
 アレクは、ユナが出してくれたレモン水を飲みながら心の中で毒づく。
(外に出て、質問攻めに合うのが嫌だからに決まってる。ユナだって、長い距離を歩くのは辛いのに)

 明らかに異国人の風貌で、アレクとそう変わらない歳なのに一人でこの街にやってきたライを、訝しがる声は少なくない。
 けれどユナは疑うこともなく花屋の隣の空き家を案内し、ライはそこに住み着いた。

 花屋を営むローザが病で伏せっているため、忙しいユナを手伝っているのだと聞かされては、アレクとしても正面切って出ていけとは言えなかった。

 自分は学校と家の手伝いがあるから、毎日ユナを手伝うことは難しい。ユナをひとりで働かせていては、いつユナが倒れるかと心配で気が気ではない。
 ユナの隣にいてくれるというだけで、アレクにとってもライはいなくてはならない存在なのだ。

 けれど目に余るほどの美少年ぶりと、歳に似合わぬ芝居がかった口調が、どうにもいけすかないのだった。

「まあまあ、アレク。そもそも私は薬屋のご主人にご用もあったのだから」
 奥からサンドイッチを積んだ皿を手にしたユナが出てきて、そう取りなした。
「それよりほら、お昼にしましょう。アレクも食べて行けるのでしょう?」

 さっと立ち上がったライが大皿を受け取り、テーブルに運ぶ。出遅れたアレクは台布巾を濡らしてくると、ざっくりとテーブルを拭いた。

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