ドSな兄と暮らしています
第4章 見つかったもの
「兄ちゃん、歯医者のスタッフの人、きれいな女の人が多かったけど、彼女とかできないの?」
兄ちゃんがすすりかけていたうどんを吐き出しそうになるのを堪える。
腕を使って、むせ込んだ口と鼻を抑えた。
兄ちゃんは、ひとしきり咳をした後に、ようやく声を出した。
「なんだ急に、兄ちゃんは、彼女作るために歯医者で働いてるんじゃないぞ」
茶化すようにそう言いながら、一口お茶をすする。
「しお、そう言えば昔、『兄ちゃんのお嫁さんになる』って言ってたけれど、汐夏の方こそどうなってるんだ? 高校生なんだから、彼氏ができてもいいけれど、報告くらいはしろよ」
兄ちゃんは、そう言った。なんだかお父さんみたいな感じで言っていた。
私がその言葉を言ったのは、確か中学校に入る前。
兄ちゃんにとって、私はやっぱり、妹なんだと実感してしまう。
それ以上でも、それ以下でもない、妹。家族。
わかっていたけれど、言葉にされるとなんだか苦しいところがある。
それは、私の中にずっと前から芽生えて育っているもののせいだとすぐにわかっていた。
あれは、私にとって紛れもなく本気のプロポーズだった。
だからこそ、ちょっとだけ言葉に詰まった。
「どうもなってないよ…… ずっと変わらないよ」
あぁ、こんな言葉じゃ伝わらない。
私の中のもやもやが、どんどん心を支配して、突き動かす。止めたかった。これを言ったらこの関係は居心地が悪くなる。
心は、そんな警告音も届かない場所にいた。
「私は、今でも兄ちゃんのお嫁さんになりたいし、ずっとずっと好きだよ……」
鳴り響く警告音が、やっと耳元で聞こえるようになった頃には、そう口走っていた。
私は兄ちゃんの表情を見られない。
私たちの生活は、ここで途切れてしまうのかもしれない……。音を立てて、崩れてしまうかもしれない。
私はカップうどんの残りを一気にすすって口に入れると、ごちそうさまも言わずに、2階への階段を勢いよく登った。
布団の上に体育座りをして、自分から出てしまった言葉を反芻して、両手で口を抑えた。
興奮、恐怖、焦り、不安、苦しみ、期待…………
様々な感情が一緒くたになって、心臓が狂った音を立てていた。