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ドSな兄と暮らしています

第4章 見つかったもの

「汐夏、待ってたよ。一人で来るなんて珍しいねぇ。よく来たね」

真希さんは、優しく微笑む。その目元が兄ちゃんにそっくりで、いまは少しだけドキッとしてしまって俯いた。

「真希さん、私、相談したいことがあって……」

「知ってるわ、いつもそういう時は決まって一人で来るね。上がってちょうだい」

真希さんはそう言いながらのんびりと家の奥へ入っていくと、お茶の準備をし始めた。
私は、「お邪魔します」と言って靴を揃える。
私の心の糸が少しだけほぐれる。

「真希さん、これ学校の近くのケーキ屋さんで買ったクッキー。すごく美味しいんだよ」

と真希さんに手土産を渡した。

「ありがとう、今食べちゃいましょう」

と嬉しそうに受け取った後、お茶と共にクッキーを出してくれた。



向かい合わせにダイニングテーブルに着く。
他愛のない話をしながら、真希さんは私の相談や悩みを引き出すタイミングを見てくれていた。

「汐夏、先月学校で大変だったって創太から聞いたよ。創太、あの時すごく心配してたわ。『汐夏の声がまた戻らなかったらどうしよう』って」

……兄ちゃん、そんなこと思ってたんだ。私の前では焦っている様子なんて微塵もみせなかったのに。

「もう大丈夫?」

「うん、話せるようになった」

「体は大丈夫でも、心はうんと無理していることあるからね。……創太が私に弱音吐いてるの、意外だった?」

真希さんは、紅茶をすすりながら、穏やかにそう言った。
私はクッキーを齧りながら、コクリと頷く。

「創太が、汐夏を引き取るって決めた時にね、最初は、なんて無茶なと思ったの」

真希さんは遠い目をして話し始める。
そう昔ではないのに、真希さんは懐かしさを感じている表情をしていた。

「だけれど、あの子が突拍子もなかったのは、10歳だった汐夏の将来を1番に案じたからだね。結果的にどこの親戚に預けるよりも、1番良かったと思う」

20歳そこそこで、幼い少女と暮らすことの戸惑いは想像をはるかに超えるだろう。真希さんも当時、たくさん兄ちゃんの相談に乗って私たちを支えてくれたのだろう。

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