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ドSな兄と暮らしています

第7章 ふたりのこれから 〜最終章〜

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その日は、いつもより30分くらいバイトの時間が長引いた。
品出しの量が多くて、思ったより時間がかかったからだった。
店長には、「申し訳ない」と言われたが、30分だったら大丈夫と思って、残業をしていた。

帰る前に、兄ちゃんに連絡を入れた。

『ごめん、バイト30分長引いた。今から帰ります』
『了解、気をつけて』

バイト先から家までは歩いて10分の距離だった。
今日はあいにく、自転車ではなかったから、早足で帰る。

夜の遅い時間は大通りを通って帰ることは、兄ちゃんとの約束になっていた。
だけれど、どうしても早く家に帰りたくて、少しショートカットした裏道を通ることにした。

大通りから1本横に抜けると、住宅街で一気に静かになる。街頭はあるものの、静かで人の気がなくてちょっと怖くてさらに早足になっていた。

ちょうどその時。

「ちょっと、お姉ちゃん〜」

後ろから声をかけられて振り向く。

暗闇の中に、いつの間に居たのか、30代くらいの男性が立っていた。
声の感じから、何か様子が変だ。

立ち竦んでいると、男が少し私に近づいてきた。

距離はそれなりに取っているのに、すごい酒の臭いがして、こちらの気分が悪くなりそうだった。
男は、ゆっくりと私に近づいてくると、気持ち悪くニタっと笑った。

「3万やるからさ〜〜俺とヤらない?」

「……は?」

一瞬、何を言われているのかわからなかったけれど、なんだか気持ちの悪いことは確かだ。

やばい、この人は正常ではない。逃げなくては。

そう強く思っても、恐怖で体が動かない。声も出せない。

じわじわと千鳥足で距離を詰めてくる男から、後ずさりして距離をとる。
恐怖で手が震えていた。

早く、早く、助けを求めなきゃ……

男の手が、私の腕に触れそうになる。
震える手でポケットからスマホを取り出そうとした、その時だった。

「おい。何やってんだ」

私の後ろから声がかかる。
振り向くと、自転車に乗ってやって来る兄ちゃんがいた。
私の近くまでやってきて、自転車をとめて降りた。

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