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ドSな兄と暮らしています

第7章 ふたりのこれから 〜最終章〜


帰ってきてからすぐに、兄ちゃんは私にきいてきた。

「なんで大通りを通らなかった?」

静かだけれど、怒っているのがわかる。
兄ちゃんの目を見られない。

「……早く、帰りたかったから、です…」

語尾が縮んでいくのに被せるように言った。

「あのなぁ、大通り通れって言ったのは、危ないからだ。そういう約束だったよな? 今日みたいに遅くなる時だってある。いつもだって早くても10時までだ」

俯いて泣きそうになっている私に兄ちゃんは言った。

「顔上げろ。大事な話だよ」

私は恐る恐る顔を上げた。既に目にはいっぱいの涙が溜まっていた。
兄ちゃんが怖いんじゃない。

怖い思いをしたことの実感が今になって湧いてきたからだった。

「怖かっただろ? あれが普通にあるんだ。世の中良い人ばっかりじゃない。俺が迎えに行けなかったらどうなってたと思ってるの?」

また俯いてしまう。今度は床に涙が落っこちた。
慌ててごしごしと拭う。

兄ちゃんは私の頬を両手で包むと、もう一度顔を上げさせた。

「いいか? とりあえず来週1週間は終わったら連絡。迎えに行くから。今後、1人で帰る時は絶対に大通りね。わかったか?」

兄ちゃんは目を合わせて約束を取り付けた。
私が小さく首を縦に振ると、すぐさま言った。

「返事は?」

「……はい」

涙で声が震えた。兄ちゃんは、頭をぽんぽんと撫でてから、私をぎゅっと抱きしめた。
安心して、次から次へと涙がこぼれる。

「何もなくて、本当に良かった……本当に……」

兄ちゃんは力が抜けたような声でそっと囁くと、それ以上は言わなかった。代わりに、抱きしめる手に力をこめる。
兄ちゃんは本気で心配してくれていた。

「ごめ、ん、にい、ちゃ…ん」

涙で喉を引きつらせながら、そう伝えた。

「よしよし、泣くな泣くな。怖かったな」

私はヒックヒックと泣きながら息を吸った。
兄ちゃんはあやすように、とん、とん、と背中をたたいた。それはとても久しぶりだった。
次第に、息がだいぶ楽になって行く。
落ち着くのを見計らって、兄ちゃんは言った。

「風呂はいってこような。俺はご飯温めてるから。バイト、お疲れ様だったね」

兄ちゃんは私の目の高さに屈んで、私の涙を拭うと、手を引いて風呂場まで連れて行った。

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