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不倫研究サークル

第7章 小梢の過去

「でも、どうして嘘なんてついたの?」
「最初から土門さんの事を話せば、小梢も無駄に苦しまなくて良かったのに」

「最初はそのつもりだったわ、でも……」

ここでまた、小梢は大きく息を吸って、呼吸を整える。

「圭君を見たとき、困ったことに気づいたのよ」

「困ったこと?」


「何度も、何度も、土門さんの日記を読んでいるうちに、自分でも気づかないうちに……」
「圭君の事が好きになっていたの」

「そんな……」

僕が何か言おうとするのを制して小梢は続けた。

「わたしは、土門さんのためと思いながら、実は自分のために圭君を探そうと考えていたのよ」

「酷い話よ。わたしは土門さんの命を奪っただけで足りずに、彼女の恋まで奪おうとしたの」

「圭君にデートに誘われたとき、自分がどんなに恐ろしい事をしているのか気づいたの」

「それでも、なんとか自分を正当化できないか考えたわ」


「でも、やっぱり無理……」


なんという事なのだろう?

今のままでは、小梢は僕と付き合う事なんてできないだろう。

小梢を正当化できる理由を見つけない限り、僕と本当の恋人同士になるなんて無理だ。

そして、今の僕には小梢を説得できるだけの知恵も経験もない。

でも……、

「じゃあ、どうして今日、僕と……、その、したの?」

「区切りをつけようと思って、なんでも良かったのだけど、最後に圭君の温もりを感じたかってのかも、ホント、勝手だよね。わたし」


小梢は立ち上がると『やっぱり今日は帰るね』と言って帰り支度を始めた。

「日記は、圭君が持ってて。わたしは全部暗記するくらい読んだから」


「駅まで送るよ」

「ありがとう、最後まで優しいね、圭君は」


僕が立ち上がると、小梢は唇を合わせてきた。

僕も応える……。

キスが、こんなに悲しいなんて……。


僕が小梢と言葉を交わしたのは、この日が最後となった。




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