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不倫研究サークル

第5章 初デートはホロ苦く

サザエのつぼ焼きを食べ終わり、ビールは殆どこずえが飲んだ。

僕たちは海岸の方へ移動した。

そこにはベンチがあり、対岸の街の明かり灯りが見える。
僕たちはそこへ座り、波の音を聞いていた。

ザザー……、ザザー……、ザザー

何度か押し寄せては引いていく波の音を、僕たちは黙って聞いていた。

そろそろ、頃合いだ。

僕は意を結する。


「あの……、小梢……」

「ん?」

潮風に小梢の黒髪がなびく。手で押さえながら小梢が振り向いた。

出会った時の、大きくて黒くて、深い瞳が僕を見つめていた。


どうして小梢は僕の前に現れたのだろう?
どうして、こんなに小梢の事が好きになったのだろう?
もし、フラれたら?

この期に及んで、僕は弱気になる。


「なに? 圭君」

じっと、大きな瞳で、小梢は僕を見つめる。


不思議と、ドキドキはしなかった。なんとなく、答えが分かったような気がしたからだ。

小梢の瞳には、悲しい色が宿っていた。


これまでにも何度か見せた、寂しげな表情。そんな時、小梢の瞳には悲しい色が宿っていた。


でも、今更やめられない。

「僕と、正式に恋人になってくれないかな?」

「小梢の事が好きになったんだ」


小梢の瞳は、悲しい色のまま、今度は潤みを含んでいた。



「ごめんなさい」


ザザー……、ザザー……、ザザー

小梢の返事は、波の音に紛れて、ようやく聞き取れるほど、か細かった。




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