テキストサイズ

人身供物の村娘

第1章 年に一回の村祭り

村祭りの後に菊理は、黒狐様の祀られる社に向かう。
とても暗くて、帰ることはできない場所であった。

(暗いな…)
そう考えて歩を進めていると、道の奥から鈴の音が聞こえた。
「鈴…?」
そうして、足を止めて周りを見るが
何か鈴があるような感じはしない。

すると、頭上から低く脅すような声が聞こえた。
「お前が贄か…」
急な声にびっくりして、菊理が震えていると
もう一度、声が聞こえた。

「お前が今年の贄か…」
振りむくと、いつの間にか後ろに黒の髪の毛に
黒の、九本の尻尾を持った男性が立っていた。
尻尾を見るだけで、その人が人間でないことはわかった。

「もう一度聞く、お前が今年の贄か。」
そう低く聞く男性に、菊理は頭を下げてうなづくしかできなかった。

「そうか、ならば来い。」
そういって踵を返す、男性(?)に
菊理は黙って、ついていくしかなかった。

「ここだ。」
そういって、連れてこられたのは
古い民家のような、小屋で。
そこには、綺麗な布団や着替えが用意されていた。

「黒狐様?これは…」
そう聞くより早く、腕をつかまれ布団に投げ出された。

「きゃ…っ!?」
驚きより先に、黒い影が菊理の上にまたがった。

「元服したてらしいがお前、生娘か?」
振りほどこうとしても、ふりほどけなくて
ここにきて菊理は初めて恐怖に震えた。

「おい、聞いてるのか。」
肩を震わせる菊理に、黒狐がもう一度問う。
それにうなづくしか、菊理には残されていなかった。
菊理は黒狐の言う通り生娘だし、酸いも甘いも知らなくして、黒狐の供物になったからだ。

今までこれでいいと思った人生を、初めて後悔した。
そんな、菊理に対して黒狐は意外な答えを出した。

「そうか、ならば今日はもう寝るがいい。」
そういって菊理の元から離れて部屋を出た。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ