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私淫らに堕ちます

第6章 デート①

 ところが,麗華さんは,高校を卒業後の進路を,井坂さんの大学ではなく,母さんのいる大学にし,なんとうちの家に一緒に住むことになった。

 そのときの僕の喜びようはなかったと思う。母によると,井坂さんはかなり寂しがっていたが,世界で最も研究が進んでいる母の大学で学ぶことを喜んでいたようだ。本当の娘でない麗華さんのためにどうしたらいいかを真剣に考えてくれる心から優しい人だ。

 日本に帰ってきたとき,一人ぼっちのぼくを何かと心配して声をかけてくれたのが,この井坂さんだった。

 最初はバイトということで手伝い始めたが,研究を始めると面白くて仕方がない。ついつい没頭してしまう。

 こんなところは,やはり母さんに似ているのだと思うし,あのときの母さんの気持ちが良く分かる。土日の休み時だけという約束だったのだが,最近は,学校が終われば,つい大学へ足を運ぶようになってきている。

 大学生や院生,助手などの中で高校生が一人で浮くんじゃないかと思っていたが,留学生も多く,アメリカで母さんの教え子だった人もいて,みんな良くしてくれて,居心地がいい。

 ところが最近研究に集中しきれていない。いや,4月からすっとだ。

 理由ははっきりしている。そう,死んだ麗華さんにそっくりの先生だ。先生のことを考えると,動悸が激しくなり,心が揺れ動く。

 気になる存在から今は,会いたくてたまらないという気持ちが心の奥底から湧いてくる。

 ベッドの上に置いてあったスマホをもって,画面を眺めた。どうしようかと迷い,アプリを開こうとする指を止める。やがて,時計を見て,スマホをポケットにしまった。

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