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私淫らに堕ちます

第7章 デート②

「やっぱり徹夜したのね。ちゃんと帰りなさいって言ったのに。」

 入口の方から張りのある女性の声が届いた。声の主は見なくとも分かる。またコーヒーを口に入れ,ゆっくり顔を向けると,言葉の意味とは反対に優し気な顔でこちらを見つめている。そういえばここにまるで親代わりと言わんばかりの人がいたなと思いながら,

「それを言うなら井坂さんもですよ。ぼくは母から譲り受け,井坂さんに教えてもらっていることを忠実に実行しているのに過ぎません。」

と井坂さんも「人のこと言えないでしょう。」と,もう何度ともなく行ったツッコミを行う。

 だいたいこの時間に大学にいるということは,井坂さんも明らかに徹夜だ。目の下にクマができてるし。とても40代とは思えない美人なのにもったいない。

「もうこの子ったら。わたしは,無理をしたらダメって言ってるのに~。」

 普段の教授らしい威厳のある態度からは想像もつかない可愛さを発揮する。ギャップ萌え爆発だ。

 これで独り身なんだから,世の中間違っている。いや,母さんも結婚しても,研究に没頭しすぎて,すぐ離婚したんだったよな。あれか,わたし研究が恋人よってヤツか。

「無理はしてませんよ。ただ家に帰っても,することがないんですよね。ここで有意義な時間を過ごしているだけです。」

「高校生なんだから,いろいろあるでしょう?部活は,まぁーー研究に誘ったわたしが言えたもんではないけれど,勉強とか,恋愛とか?」

 これも定番のやりとり。母親のように高校生活を楽しむことを勧める。心配してくれていることが分かっているだけに,ありがたいとも思う。

 ただ研究以外興味が持てなかった自分としては,聞き流すようにしていた。今までは。「恋愛」という言葉に,ピクッと反応してしまう。

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