無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

「行ったらダメだ～。」

　パッと目が覚め，気付いたら叫んでいた。

またあの夢か…・・

走り去っていく車の映像がまだ鮮明に残っている。毎夜繰り広げる悪夢にいまだに慣れない。嫌なものを振り払うように頭を振った。

「お客さん，大丈夫ですか？ずいぶんうなされていたみたいですが。どうやら目的地に着いたようです。」

　タクシーの運転手が，心配そうな顔をしている。うなされてもそのまま寝かせてくれていたんだろうな。優しい人だ。

「大丈夫です。ありがとうございました。」
頭を下げ，支払いを終えて，タクシーを降りた。






　待ち合わせ場所は，水族館の隣にある公園の端のベンチ。

　この辺りは，もともと海を埋め立てたところで住宅地から遠く，周りが緑に囲まれた自然いっぱいの場所だ。

　やや離れたところから，親子で遊んでいる楽しそうな声が，かすかに聞こえてくるが，それ以外は，鳥の鳴き声や季節外れの蝉の声しか聞こえず，静寂に包まれている。外で人の気配を感じないのが，思った以上に心地いい。

　
　人工的な自然を満喫し，涼しくなってきた穏やかな風を浴びながら，ベンチの上で伸びをした。

「う～ん。」
なんだかまたこのまま眠れそうだ。