イラクサの棘
第2章 プラン
2度目に行った居酒屋のカウンター
肩を並べての差し呑みで
お互い堅苦しい呼び方はやめにしようって
言ってくれた翔さん。
※ ※ ※
「あだ名は?なんて呼ばれてるの?」
「学生の頃は松潤って呼ばれてた。
あと偶に下の名前で呼ばれたりしてたかな。」
「ふーん松潤かぁ
潤って名前の響きいいよね
松本くんの雰囲気にとても似合ってる。」
じゅん、なあ、潤。
かつて呼ばれた彼の声が鼓膜の中に
小さな響きで生まれそうになる
捨て去りたい過去
忘れていたと思ってたあの頃の残像が揺れ動く。
「どした?気分悪くなった?」
「あ、ううん、大丈夫。
すこし酔ったのかも。」
「ちょっと待てて。っよっと!
ほら、これ飲めよ。」
そう、あの時も驚かされた。
手探りでリュックの中から取り出したのは
封の空いてないミネラルウォーター
見た事のないラベルの品だった。
「ほら、グラスこっちに貸して
注いでやるからこれ飲んでみて。」
「え、あっ、ありがと。」
1度目の待ち合わせ場所のカフェで
なぜ氷水を飲まないのって訊ねられた時
いつも常温の水を飲むようにしてるからって
言ったあの、俺の言葉を覚えてくれていた。
「これさ、輸入雑貨の店頭に並んでて
目についたからさ。
だから潤に飲んでもらおうと買ったんだぜ。」
一杯目の乾杯は松本くんだったのに
ほんのり色づく翔さんの目元が優しく笑いかけながら
当たり前のように潤って呼んでいた。