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イラクサの棘

第16章 アナタニチカヅキタイ



「寒いだろ、暖房つけてくるな。
あっなんか飲む?」

「ううん、もう充分呑んだから。
それより、翔さん、俺の話を聞いてほしい。」

「分かってるよ。ちょっと待ってな。」

暖炉の火を起こす準備に、
潤のために膝掛けをかけてやる。
強めに設定した暖房のあたたかな空気を
感じたのか安心したように微笑む潤。


「あのね、…今朝
智から俺の携帯に…電話が…あったんだ。」

「智って、潤が会いたく無いって言ってた?」


「そう、俺の昔付き合ってた人。
裏切りられて、フラれて、捨てられちゃって
ミジメな自分がイヤでさ
いろんな事があって…先生に助けて
もらってそばで働かせてもらってるんだ。」

「潤、ムリに話さなくても…」

「ううん、俺、翔さんに…
翔さんに聞いてほしいって思ったから
迷惑かもしれないけど…」

潤ませた眼差しは真剣なもの
分かったから、ゆっくり話してみてと
すぐ横に並んで座ると、
安心した表情で大きく息を吐く。


電話で週末にはそっちにむかうことを伝えたこと。
短い通話のあいだ
電話の向こうの彼から何度も繰り返し潤と
名前を呼ばれた事。

うつむく潤の唇が戦慄くように震え続けるので
おもわず抱き寄せてしまう。

「…翔さん……」

「1人で抱え込まなくていいっ
俺にぜんぶ吐き出しちまえ!
潤、大丈夫だよ。俺がそばに居る。」

「忘れたフリして、捨てたつもりなのに
心が苦しくて…辛くて
ほんと馬鹿だよね
こんなに憎いのにまだ夢に出て来たり
俺は、俺がっ…なんで俺なのって?!」


被害者意識で居るのが辛かった
ミジメな自分がイヤで堪らなくて
人と関わること
人に交わることを
避けるようにして生きてきた

自分自身への嫌悪感

忘れたくてもわすれさせてくれない
記憶の残骸が、潤の心を引き裂くように
傷つけてきてた。



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