イラクサの棘
第1章 プロローグ
潤side
俺が向かってる病室は最上階の特別病棟。
午後1番の訪問。
最近は容体もすこぶる安定してきてて
顔色もずいぶん良くなってきてる。
大学時代の恩師であり、俺の職場の上司として
俺の生命の恩人でもある人。
「失礼します、こんにちは」
「いらっしゃい、さあ座りなさい。」
「お気遣いなさらず
先生、あの、なにか急用なんですか?
電話じゃ無理だからって仰ってたので」
「そうだったね、
これを君に渡したくてね、
いつも頑張ってくれてるんだし
しばらく休暇を取って出かけてきなさい。」
手渡された個展案内の絵葉書の裏には
見覚えのある筆跡
消印は、北の大地
「先生、これは?」
「大野だよ、どうやら向こうで個展が
開けることになったそうだ。
ぜひ2人で来て欲しいですと別便で大野から
手紙と招待状も届いてね」
「…………そう、ですか」
「今の私にはさすがに無理だからね
君だけでも行って来てくれないか?」
「……ムリです。
先生の部屋の山積みの書類整理もあるし
仕事もそうですけど
先生のこと放って出かけるなんて…
俺には出来ません。」
「では、業務として君に依頼することにしようかな?」
「なっ!イヤです
俺は絶対に行きません!」
ドアをノックする音
思わず荒げてしまった声量に扉を少し開いて
馴染みの看護師さんに頭を下げる。
「そろそろ自分の将来を考えなさい。
もう、自由になってもいいんだよ。
潤、君はもっと自分を許すべきだよ」
「先生……でも、俺は…」
「良い機会だと思うんだよ。
それに1人じゃないし、同行者も用意してるんだ」
「…はぁ」