イラクサの棘
第25章 踏み出す一歩
癒えない痛みに
しずかに涙した分の哀しみ
その倍以上の
多幸感を潤に味あわせてやりたい
「正直言うと、自分でも最初は
俺の頭が狂ったのかと思ったよ。
恋愛感情の欠落はなんとなく自覚して
たけど、まさか絵画に描かれてる
相手に惚れ込むなんて。
自分自身が病気なのかって思ったな。」
だけど
いつまでも見続けていたい
この背中に素肌に触れてみたい
振り返らせて抱きしめてみたい
憂いなのか、薄幸なのか
それとも、破顔なのか
微笑にもみえるわずかな口許
首筋のやわからな後れ毛
触れてみたい2つのほくろ
日本画風でもなく
西洋画風とも思えない
きらめく光がまばゆく描かれて
透き通るような美しい背中
おそらく作者が絵筆にありったけの愛を
魂を込めて描いたとしか思えない
「潤、それがおまえだよ。
現実世界に、存在してくれて
俺とこうして抱きしめ合えるほどの
そばにいてくれてる。
潤、愛してる。
絵の中のおまえよりも、こうして
抱きしめるおまえのほうが
誰より愛しいよ、潤好きだ。」
頬をつたって零れ落ちる雫をそっと
舌先で舐めとってやる。
「俺は…でも、…だって…
俺も翔さんが好きっ、翔っ翔さんっ!」
逃れられない痛みは
そう簡単に消えたりはしない
疼いて、化膿して、悪化する
それらぜんぶの潤が抱えてる傷は
俺がこの手で拭い去ってやらなきゃいけない。