イラクサの棘
第31章 帰路
智兄の表情がすこし気落ちしたように見えた。
ちょっと饒舌過ぎちゃったかな。
いつもなら車に乗り込むと
すぐに眠り込んじゃうのに
今日は珍しく智兄から話しかけてきた。
話題は、迷子の晶と一緒に俺を探し回って
くれてた2人のこと。
晶と一緒に智兄のところに戻った時は
たいして深く訊ねたりしなかったのにね。
ポツポツ落ちてきてた雨は
すぐに止んで、また曇り空から
太陽がのぞいて見えてきてる。
無言のままぼんやり窓の外を眺めてる智兄。
ごめんなさい、智兄。
あのね、俺はウソつきだから
平気でウソを幾つも重ね続けるんだ。
ちゃんと覚えてるよ?
際立つほどの目鼻立ち
秀麗な眉に、美麗な唇
その口元を飾るような色気ボクロは
たしかにあったんだ。
潤、いくぞ。
そう呼んだ
爽やかなイケメンさんは
当たり前のように手を差し出して
その手に指を絡めるように握ったのは
潤と呼ばれてたあの美人さん。
俺は、智兄にすごく意地悪な事言ったんだ。
お似合いの2人だったなんて
訊かれてもない事をペラペラ話したりした。
だって…智兄が気にしてるのは
美人さんの方だけなんだもん…
あの美人さんだけのことを
知りたがってるのに、俺はあえて
2人組の仲良しなカップルの話をしたんだ。