イラクサの棘
第31章 帰路
「あのさぁ、雅紀
もしだぜ、もしも俺が居なくなったら
晶と、美也子のこと頼むな。」
「は?えっ!何言って!!」
「おわぁ、危ねえっ
前見ろ!雅紀っ、ちょっと車停めろ!」
急ブレーキで停車
ハザードランプ出したけど
かるいパニックになってしまってる。
また智兄
居なくなっちゃうの?
1人で何処かに行っちゃう
晶、姉ちゃん、俺、
今度は俺ら3人のこと放り出すの?
ダメだ
考えが追いつかない
頭までうまく酸素が回らない
ちゃんと呼吸しなきゃ
「落ち着けって、雅紀っ!!」
「…はっ…はっは…ハッハッ…っくっ」
苦しくて息ができない
智兄が居なくなったりしたら
もう、あのときみたいに
遠くから見送るだけなんて…いやだよ
ヒッ、ヒッヒッィヒッヒッィ
過呼吸気味でうまく呼吸ができない
「ごめん、ごめんなっ!
俺が変なこと言ったからっ
しっかりしろ!雅紀っ!」
抱きしめてくれる智兄の腕の中
徐々に意識が遠のいて行く
これはきっと天罰だ
嘘つきの俺への神さまからの天罰
ううん、これはご褒美かもしれない
だってこのまま智兄に抱きしめてもらって
生き絶えれるなら
それこそ本望かもしれない
遠のく意識の中
フロントガラスをたたく音
「どうしました、大丈夫ですか??」
聞き覚えのある声のような気もしたけど
意識を失った俺には
それが誰か分かるのは病院のベッドの上だった。