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イラクサの棘

第31章 帰路



あいつが望んでない事
同性カップルへの世間的な奇異な視線
薄い暗い夜道や
人通りのほとんどない道で
こわごわ触れたくる指先は
単に潤が恐がりなんだと思ってた。

鈍くて、どうにも察しが悪くて
もしかしたら潤は
俺ともっと手を繋ぎたかったのか?

潤、おまえに
訊ねたいことが山ほどあるんだ。
俺が居なくなってしまったあと
潤は、おまえは1人でどうしてた?

俺はもうずっと前から俺の欄を記入してる
離婚届けをずっとスケッチブックに
挟んであるんだ。

それを手に持つと
俺の犯した過去の過ちを
潤に全て許してもらえるような、
まるでそれが免罪符であるかのような
都合のいい錯覚を覚えてしまう。




 

「あのさぁ、雅紀
もしだぜ、もしも俺が居なくなったら
晶と、美也子のこと頼むな。」

「は?えっ!何言って!!」

「おわぁ、危ねえっ
前見ろ!雅紀っ、ちょっと車停めろ。」


ふらついて蛇行する車体
どうにかぶつからず事故らずにすんで
急ブレーキで停車できた。



なんでだ?雅紀の様子がおかしい?

ハンドルからも手が離せないようで
無理矢理身体を抱き寄せると
ガタガタ震え出して息遣いがかなりヤバい。

ガキの頃はよく過呼吸で
しゃがみこんじゃう事が多かったが
大人になってからの雅紀の
こんな苦しそうな姿を俺は知らない。

深く考えもせずについ口から出た
俺の願望のせいで
雅紀がこんなことになっちまった…



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