イラクサの棘
第37章 オオカミ&オオカミ
「………じゃあね」
タップして終わらせる。
ほんの五分足らずの素っ気ない通話。
その会話の中で、何度も潤って名前を呼ばれたけど
俺が智の名前を呼ぶことはなかった。
智は過去の人だから
なんの感情の起伏も起こらず電話を切れた。
智との過去にこだわってたのは昨日までの自分。
「翔さん…」
名前をつぶやくだけで
胸の内側に熱いものが込み上げてきて
身体だってこんなにもすぐ変化してくる。
温まってきた
つま先、足首に脹脛
ぜんぶ翔さんの唇が触れて辿ってくれた
太腿の内側、付け根付近には
唇がつけた鬱血の痕もあったし
たぶん背中とか、俺には見えない
部分にも、愛された印がたくさんあるかも。
翔さんを…
俺の優しいオオカミをその気にさせるには
どうすればいいのかな?
赤ずきん、服を脱ぐ?
それとも、お風呂に誘う?
そうだ!
俺がオオカミに変身しちゃえばいいんだ
間抜けな赤ずきんなんてやだもん
ちょっとした思い付き
ほんのいたずら心
眠ったフリをして、待ち伏せしてたら
しばらくするとここに
俺の様子を見に来てくれた翔さんを…
ガブリっ!!
翔さんにおもいっきり噛みついちゃえ
湯に浸した足も濡れたまま
脱ぎ捨ててたデニムを片手に
寝乱れたままのベッドに潜り込んで
待ち伏せの準備。
きっとすぐに
俺の愛しいオオカミが探しに来てくれる筈。