イラクサの棘
第40章 ルーツ
「うそ…それって」
なぁんてな、冗談だよっ
軽い口調でそんな言葉待ってるのに翔さんは
黙って微笑んでいるだけ。
てっきりお金持ちのお坊ちゃまで
親に甘やかされて
道楽で世界中旅してるんだろうなぁとか思ってた。
松岡先生にものすごく優秀だって
教えてもらった時にだって
まさか、翔さんの出自にそんな背景があるなんて
思ってもみなかった。
「俺は正真正銘どこの馬の骨かもわかんねぇ
男だぞ?それでもいいのか?潤。」
「翔さんしか…いないって言ったよね?
俺には…あなたしか…見えない。」
「俺も潤だけだ。
だからおまえをここに連れて来たんだ。
ここが俺の歴史のはじまりだから。
翔って名前はおふくろが名付けてくれたんだよな?」
「はいさようでございます。
奥様がかごの中から抱き上げた際に
ひつじのぬいぐるみがそえられて
真っ白な羊毛のおくるみに包まれた
それはそれはかわいらしいお坊ちゃまの
あかちゃんでございました。」
「おふくろ曰く、
天使から贈り物が届いたわって飛び上がって
喜んだらしくってさ。
包まれてたのが羊毛だったことで、
天使の羽と羊の漢字で
翔って名付けてくれたんだってさ。
な、かなりファンキーなおふくろだろ?」
鮮やかな記憶が甦るのか、
翔さんを見つめるじいやさんの瞳は
慈愛に満ち溢れてて
素敵なご夫婦の愛情と、じいやさんの
思いやりとこまやかな配慮の中
真っ直ぐに育ったんだろうなって
幼い頃の翔さんを思い描いた。
「とってもステキなネーミングセンスだね。
お会いしてみたかったな。翔さんのご両親に。」