イラクサの棘
第5章 Journey
給仕のウェイターがワゴンをころがして
コーヒーの支度が始まった
本格的に挽きたてを味合わせくれる
芳醇な香りが鼻腔を擽る。
カップを持ち上げて
注ぎはじめた時、おもわぬ事態が起きた。
斜め後ろのテーブルのご婦人が立ち上がり
歩きだそうとしたタイミングに
車両が左右におおきく揺れてしまい
ご婦人がふらついて
ウェイターに寄りかかるように倒れ込んできた。
「うわあっ熱っ!!」
並々と注がれていた湯気のたつコーヒーが
俺のパンツの太もも付近に溢れてしまう。
「潤っ!大丈夫か!」
それからの翔さんの行動は
驚くほど迅速に対応してくれるから
俺はただ呆けたように座ってるだけ。
パンツの上から浴びせられる大量の氷水。
翔さんはおたおた慌てふためくウェイターに
バスタオルと毛布をもってくるように指示して、
脱いだジャケットを俺に手渡してくれた。
「もう少し冷やしておかないと。
寒く感じるからそれ羽織っておきな。」
ご夫婦共々が詫びてくれるし、むしろ
俺のほうが恐縮してしまう。
「あの、もう大丈夫ですよ、ほらこうして
冷やしもらってますし。
俺のことはお気になさらずに。」
甲斐甲斐しく膝をついて応急処置を
してくれてる翔さんにも眼線で合図する。
っクシュ!
盛大に濡れた左太腿から寒気がしてきて
翔さんのジャケットを握りしめた。
「俺らは大丈夫ですよ
後は部屋に戻って処置しますので。」
立ち上がる翔さんがご夫婦にそう言った。
テーブルの上の
スイーツはほんのすこし心残りだったけど
このまんまだとホントに風邪をひきかねないし。
俺も立ち上がりかけると腰から下に手早く
バスタオルを巻かれて抱き抱えられる。