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イラクサの棘

第1章 プロローグ




「そうですか。」

素っ気ない返事。
愛想笑いとかは苦手だから。

フェイクグリーンの観葉植物じゃなければ
優雅なホテルのロビーにさえ思える。
ゆったりとした談話室
特別病棟患者の来客者専用だから土日も利用者で
混み合うこともなかった。
今だって俺たち2人だけ。



「松本潤くんでよかったよね?」

「あ、はい。失礼しました。
先生のところでお世話になってます。
あの、俺、
今回の旅行の件は
やっぱりお断りしようかなぁって考えてて。」

「と、ちょっと待って。
その前にさ、先にソレ飲んでみてよ、
絶対に気に入ると思うからさ。」


「あ、ああ、はい分かりました。」



鼻からぬける柑橘系のような香り
炭酸系の爽やかな酸味が口に広がると
思っていたテイストとは違った以外に優しい甘味。




「なにこれ?」

「ダメかな?もしかして苦手な味?」

「いえ、逆です
コレめっちゃ美味しい。」

眼差しがくっきりと弧を描いて深い微笑みを
つくって俺を見つめてくる。
彼のその優しい表情に
うっかり絆されてしまったのかもしれない。





差し出される資料の数々はどれも
カラフルでとても見やすく作られていて
旅行代理店の関係者や、もしくは
ツアコンが本業なのでは?って思える程の
精通した流暢な説明に熱量のある話し方で
内容を聞き入ってしまう。


北の大地食べ歩き探訪

まだ見ぬ北の大地へ、いざ!

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どうする?どこ行く?ミステリーツアー


おもわず、吹き出したくなるような
手作りのパンフレットの見出しばかりで
どれもその中身に興味をそそられてきていた。





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