イラクサの棘
第11章 牧場の朝
「もしもし」
「おはよう、おきてたかい?」
聞き慣れた声の主は病室での食事を
終えてから電話をしてきたそうだ。
「旅は楽しんでるみたいだね。」
「まあな、んでなんの用?」
「そろそろ彼を訪ねる予定を教えて
もらえないかな?」
まだ早いだろう
個展には自分が行くか代理で行くのか
潤はまだ具体的には決めていない。
やっと自然な笑顔を見せるようになってきている。
「分かった、明日までには
日程を決めて、こっちから連絡する。」
「まってるよ。
潤のことよろしく頼むね。」
とりあえず今夜、潤と話し合おう
潤が耐え難い程の苦しさを感じるなら
代理で俺が行って手渡せば良いだけのこと。
着替えをすませて
階下へ降りると階段付近に
ひどく美味そうな匂いが立ち込めている。
「お、寝坊助バンビの登場だぞ。」
「あ、おはよう翔さん」
「おはよ潤。
寝坊しちゃってすみません、岡田先輩!」
筋肉痛にまではなっていないが
昨日の薪割りで両腕の怠さは否めない。
手際良く包丁を操る先輩と、
その横に立つ潤は、すっかり慣れ親しんだ様子で
仲良く並んで料理を作ってくれていた。
「あ、俺もなんか手伝いますよ。」
「いや、おまえの手伝いは不用だな。
潤が手際良く手伝ってくれたおかげで
すっかり出来上がってるしな。」