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イラクサの棘

第12章 to be or not to be



ずっと前
電話帳から削除した相手の番号


「……はい……うん、久しぶり…」

智の声
小声で戸惑いながら話しかけてくる。

「うん、うん…うん……そう…」


重苦しくて会話が途切れがちな俺に
懸命に話しかけてくる智は
出会った頃の饒舌な印象を思い出させる。


「じゃあ……うん、
…週末くらいに…なるかも
はっきり決まったらね…
こっちから…連絡するから…
…うん…じゃあまた…切るね…。」





5分にもみたない通話
そんな短いあいだに
智は俺の名前を何度も何度も呼んだ。



ふうーーー

吐き出した
おおきなため息は
まな板の上で野菜と一緒に切り刻んでやった。


もうあの頃の俺じゃない

そう強く心の中で決意しながら
昼メシの支度を続けた。








※ ※ ※

潤side



「意外…翔さんって乗馬できるの?」

「意外だろ?
ってか、無理矢理の強制だったんだよ
昔、モンゴルの草原でな、岡田先輩と現地の
子どもらに猛特訓して鍛えてられたんだ」


話のスケールが違い過ぎるよ
モンゴルって?
あの、モンゴルって国のことだよね?

午後から乗馬体験をさせてやると
連れてきてくれた、牧場の一角。
柵の中にいるのは一頭
大人しくて子どもでも乗せてくれる
牝馬だそうだ。

「やっぱり馬ってすごく大きいね。」

「まあな、正直動物は苦手なんだけど
俺って変に懐かれたり、寄って来られたり
するんだよなぁ。ほら、食べな。」

翔さんが鼻先ににんじんを見せるとボリボリ
音を立てて
あっという間に食べてしまった。


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