イラクサの棘
第12章 to be or not to be
「うらやましいなぁ
俺なんて、動物に避けられたり
嫌われたりばっかりなのに…」
恐る恐る手を伸ばして鼻の上を撫でてみた。
あたたかでつよい息遣いを感じる。
「2人で乗ってみたらどうだ?」
「ええ?いやいや、勘弁してくださいよ。
俺も乗馬はかなり久しぶりなんですけど。」
「こいつならおだやかな気性だし
走り出したりはまずしないよ。
それに手綱は俺が持っててやるし。」
翔さんが先に馬に跨って
岡田先輩が俺の身体を押し上げてくれた。
たてがみにへっぴり腰でしがみつく俺を
背後から抱き抱えるようして
声をかけてくれる。
「大丈夫だよ、潤。
もっと背中伸ばしてみな。
ほら、そうまっすぐ前向いて。」
「ひやぁ、む、無理だよっ
だってっ、揺れるし…動くし…」
「そりゃ生きてるからな。
翔、しっかり手を握っててやれよ。」
俺の震える手を握って手綱を握らせて
翔さんの掌が包み込んでくれる。
触れ合う背中にひどく熱を感じる。
「おっ、コツを掴んだみたいだな。
潤、なかなかサマになってるぞ。」
「ほっ、ホント?
でも俺、そんな、余裕ないかも…」
「ちょっと岡田先輩っ、
走らせたりしないでくださいよっ
潤に怪我なんてさせたら
マジでシャレになんないっすから!」
「だったら、バンビが命懸けで潤のこと
守ってやらなきゃな。
ほら、ギャロップくらいできるだろ?」
「うわぁっ…やだっ!やめっっ!!」
すこし走りだしただけなのに
不慣れな身体は前後に揺さぶられて
おもわず出てしまう叫び声。
「先輩っふざけないでくださいよっ!
大丈夫だ、潤っ俺に身体をあずけるように
もたれ掛かって、ほら、なるべく力抜いて!」
「そんなのわかんないよ、
待ってっ!翔さんっ…やっ、こわいっ!」
翔さんの左腕が俺の上半身を周り腰から
しっかりと抱き抱えて
乗馬用のちいさな馬場の中をゆっくりとした
足取りになるよう馬を操ってくれた。