イラクサの棘
第12章 to be or not to be
「…ごめんなさい…」
「謝んなって、潤が悪いわけじゃない。
ほら、背中でもいいか?
早起きして寝不足なんだって
部屋に戻ってすこし眠るといい。」
「…うん、そうさせてもらう。」
さっき馬に乗ってた時には
背中に感じた翔さんのぬくもりが
今は全身に伝わってきてる。
ゆっくりとした足取りは
きっと背中の俺に伝わる振動を
大きくしないように気遣ってくれてるからだ。
「さっきは怖かったろ?
でも、アレは不慮の出来事だからな
馬のことは許してやって
ぐっすり眠って、ゆっくり休むといい。」
「…俺が、降りるのにぐずぐずしてたから…」
「違うよ、たぶん馬の耳の中に
虫が入っちまったせいだよ。
いきなり鼓膜にでかい羽音がしたから
びっくりして驚いちまったんだと思う。」
「そう、なんだ。」
偶然であって、不慮な出来事
俺の気持ちがすこしでも軽くなるように
翔さんのとても優しい口調。
手を洗うついでに顔も洗ってから
ダイニングに戻ると
湯気の上がるマグカップを片手に持つ
翔さんがいる。
「料理はできないけど、ホットミルク
くらいできるぞ、ほら。」
「…あ、ありがとう…。」
ほんのすこしジンジャーの香りと
ほのかな甘さも感じる。
「これってジンジャー入ってる?」
「そ、これは先輩の婚約者の葵さんに
教えてもらったホットミルクジンジャー。
ほんの少しだけど、ハチミツも入ってるんだ」