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トライアングルパートナー

第17章 純子の嫉妬

 あの日、純子は夜の潤子が昼の出禁を破って、昼間の時間帯に出現したことを知らない。純子が好きな公務を残業し、夜間の時間を使うので、夜の人格・潤子が怒ったことに思い至らない。あたしだって、昼間に、好きに行動する、という経過で起きた人格同士の内輪もめだ。その内輪もめに慶子と進一が巻き込まれ不幸を招いた。ように見えたが、二人の愛はそれを切っ掛けに急速に接近した。慶子は純子と付き合いたいがために、新一との繋がりで純子とお近づきになりたかっただけだった。3人はヒトメボレ効果で愛し合うことになるが、そんな神器を使わずとも、運命の恋をすることになっていた。純子は慶子の出現により人格が変化し始めた。

  *

 純子が用務を済ませ部長室の自席に着くと、植木対策計画係長が書類を持ってやってくる。すでに、自席の脇には決済案件が山のように積まれている。
「今田室長、お疲れさまでございます。至急の案件がございますのでこちらからご決済をよろしくお願いいたします」
 そう言ってから植木危機計画係長は持っていた書類の束を純子の目の前に、申し訳なさそうに置いた。彼は置いた場所から二歩ほど下がると、腰を折るように頭を下げ、部屋を出ていった。白髪が増えた植木は純子より年齢は5歳ほど上で、後5年ほどで外郭団体の責任者として出向すると聞いた。彼は役所の全てにおいて、情報を収集し、自分でも実際に行動した結果、知識と経験が豊富になり、企画課という部署に長期にわたり携わった。K区の長期基本構想はこの男によって作られた、と言ってもいいほどの切れ者らしい。区政に対するアイデアに能力を全力で注いだためか、出世に関心がないと見え、未だ、係長という役職だ。人の喜ぶ顔を見たいがために生きている。植木は、社会貢献できるなら、自らの命をも投げ出してもいい、と思っていた。そんな植木の気概を感じる純子には頼もしい先輩であり、尊敬するに値する人間と言えた。自分もそういう考えだから、植木の今までの仕事への姿勢を見れば理解できた。この男は住民のためになら骨を埋めることのできる貴重な精神を持った一人だ。まさに、公僕というべき人間だ。だから、異性に縁がなく未だに、独身ということだろう。純子はこういう男が、夫と同じで、魅力的に見え、大好きなタイプだった。

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