テキストサイズ

トライアングルパートナー

第17章 純子の嫉妬

 彼の言う通り、純子が室長になってから、まだ、半年の間に、驚異的なスピードで仕事が進んだ。さすがに能力の高い純子でもこれだけの短期間でK区の危機管理の計画と、実施のための具体的な方向性が作成できたのは、植木の力である。彼の具体的な知識が大きかった。純子は半年間の自らの評価をすると、植木の存在が大きかったことが容易に分かる。
 この人にお礼をしてあげたいな、と純子が思ったときだった。分かったわ、と答える声が頭の奥で聞こえた。夜の人格・潤子が出現した。
「植木係長、まだ、6時よ。こんなに早く仕事が終わったのも皆さんの働きのおかげですわ。まだ、道半ばですが、先も長いし、だいたい、歓送迎会をやったきりではありません? 慰労会でも開きたいです」
「4月の異動から、まったく、もって、それどころではありませんでしたからね。この時期で方向性が見通せたのはうれしいです。慰労会ですか、いいですね、やりたいですね」
 純子は初めて植木と仕事以外の会話をしたような気がした。
「立ち話もなんですから…… 座ってお話しても大丈夫ですか?」
 純子が室長室の応接セットに目を向けた。
「僕は今日も残業する予定でしたから大丈夫です」
 植木がいつもと違う笑顔で答えた。それを見届けた純子は植木の腕をつかんだ。
「ここでは何ですから、夕食でもご一緒にどうですか? ね?」
 植木が少しちゅうちょしたのが分かった純子はまた即答した。
「既婚者と二人きりではダメですか? それなら、個室の店がありますからそこにしましょう」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ