テキストサイズ

トライアングルパートナー

第19章 純子の再生

 大学生時代、純子は通学していた京王大学でボランティア同好会に所属していた。同好会で成人を祝う宴会が催された。
 純子は居酒屋という店で生まれて初めてビールというアルコールを味わった。一口だけ飲んだ途端、目が回って目の前が暗くなったと思ったら、いつもの目覚ましのベルの音が耳から脳内に鳴り響いた。目を開けたら、自分の部屋のベッドで寝ていた。そのとき、純子は居酒屋から自分の部屋にいたことに当惑した。
 それからというもの、純子は日が沈むと、何をしていたか、はっきり思い出せない毎日が続いた。暗くなると意識がなくなるが行動はしていることが友人に聞いて分かり衝撃を受けた。
 純子の日常は、夜に頭を使わないためなのか、前にも増して、授業、試験に対して頭脳がさえ渡った。記憶力が増大し、アイデアは湯水のごとくあふれ、まさに、水を得た魚。頭の回転は鋭くなり、絶好調の極みだった。反面、自分の夜間の行動が空白状態というのは、落ち着かず不安だった。純子の不安は毎日、積み重なり雪だるまのように大きくなり心が崩壊寸前だった。
「あたし、どうしたっていうの? なぜ、夜の記憶がないの?」
 若年性アルツハイマーになったのかも、と悩む日々を送っていた純子に、あるとき、突然、救世主が出現した。
「ねえ、あなたたち、共同で生きているのだから、完全分業してみてはいかがかしら? そうなさらないと、人生が台無しよ。つまり、人生が、ジ、エンドよ。はい、それまーーーーでぇーよぉー」
 落ち着いているけど明るくはつらつとした感じの女性の声だった。前にも聞いたことがあるなじみのある声。純子は周囲を見回した。自分の部屋の机の前に座っているのだから、自分だけしかいないのは分かってはいたが、部屋のドアを開けて廊下をのぞいてみた。洋服ダンスもそっと開けて、中を隅々まで見てみた。小人なんてものもいない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ