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トライアングルパートナー

第30章 慶子の新しい試み

「あなたが女性の体と知っても…… あなたを感じていたいの…… わたしの感情がのぞんでいる…… わたしは変になったの? 壊れた?」
 慶子は相変わらず慎之介の前にひざまずいたままの態勢で顔を上に向けていた。慎之介のものを味わおうとしていた欲望をどう終わらしたらいいか分からないでいた。慎之介が女性と分かってからも彼を味わいたくてこうしている。
 慎之介は慶子に小さい声で言った。
「慶子ちゃんは同性でもいい人なの?」
 慶子は慎之介に問われて直ぐに意味が分からなった。しばらくして、ベッドの中のことか、と思う。そんなことを考えたことはない。こんな変な態勢でいても違和感はないみたいだ。それどころか、女性と分かって慎之介への思いが増したような気がする。
 しかし、父親が同性をパートナーとして許さないだろう。小山内グループの総帥になれるパートナーを見つけることは父から出された東京行きの条件だったし、父親の願いをかなえてあげたかった。慶子は「パパが大好き」なファザコンだ。
「あなたが好きでも同性では結婚できない。お父さまが許してくれないわ」
「慶子ちゃん、大丈夫、パートナーシップ制度という考えをみんなが理解してくれれば、将来、同性婚を法令で婚姻と同じにしてくれるわ。それまでわたしといっしょに生きていけない? あたしとじゃ、ダメ? 子どもが欲しければ養子縁組制度もあるわ」
 慎之介は相変わらず背中をドアに押し付けられたままの態勢で、下から見上げる慶子を見下ろしながら話していた。慎之介はときどき、慶子のはく暖かな息がボクサーパンツの生地を通しフワッと当たると、心地よくて気を失いそうだ。
「ねえ? あなたの名前って生まれた時から慎之介なの?」
 慶子は一向にひざまずいた態勢をやめようとしないで慎之介の顔を見上げて見ていた。慶子は慎之介から発するほのかな甘い香りを嗅覚で感じていた。その香りは時間が経つごとに強くなっていた。慶子は首が疲れて見上げていた顔を正面に向けて驚いた。慎之介の紫色のボクサーパンツに染みができていた。

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