トライアングルパートナー
第1章 二人
ここで、普通の人である夫・今田進一についても紹介しなければならない。何しろ夫婦なのだから。どうして、今田純子の夫がこの人なの? 誰もが抱く疑問だ。ごく一般人から見たら今田進一という男の容姿はどうかと100人に問えば、100人が記憶に残らないのっぺり、ぼさっとした、さして特徴のない顔、いるんだか、いないんだか、空気みたいな存在と答える。彼は妻より早く係長というポストに昇進していた。イケメンでも何でもないただの人。普通な人。いわゆるフツメン。穏やかな目立たない容姿は不可もなく可もない。決して流ちょうでもなく、快活な話し方でもなく、どちらかというと、ぼそぼそとした、くぐもった感じ、実直な話し方、でも、聞いていると、誠実そうで、信頼できそうな、心が穏やかになりそうな微妙な味のある話し方だ。独特の特徴のない話し方を駆使して、彼は住民説明会で住民の一人が納得するまで一生懸命、丁寧に説明した。その実直さが信頼を得て数々のトラブルを解決に導いていく。だから、常に、最前線の重大な局面を決定する区政を進めるとき、彼が必ず住民説明のチーフとして任された。その重大な説明会の案件の中心人物が純子であった。彼はその仕事を好んだという訳ではないが、彼もまた、純子を心から愛していた。彼女が役職を上げるに従い、重要な区政の方向を担う仕事に就くようになっていく。それを助けるために彼が行動していた、と言ってもいい。本人はほかの仕事をやってみたい、とは思ってはいた。しかし、自分を愛してくれる彼女の仕事のトラブルを取り除くことに彼は全力を注いだ。彼は彼女を陰から支えていた。こんな僕を愛してくれる彼女を助けたい。彼は心から彼女を愛した。
入所以来、彼は人事異動を経験したことがない。実は、彼女が能力を駆使し、彼を異動させないように、人事部に裏から手を回していた。それには彼女がどうしても彼の力を必要とする理由があった。
入所以来、彼は人事異動を経験したことがない。実は、彼女が能力を駆使し、彼を異動させないように、人事部に裏から手を回していた。それには彼女がどうしても彼の力を必要とする理由があった。