『トライアングルパートナー』第5章「ラブゲーム解禁」　34ページ

小中大テキストサイズ

トライアングルパートナー

第5章ラブゲーム解禁

　8ピッドはショーウインドーをファイバークロスを使って丁寧に磨き上げている。彼は手を休めると、曇り一つない透き通ったガラス越しに見るヒトメボレが放つ輝きを見つめる。彼はこの神の化身により、愛で地上が満たされたときを想像し、気持ちが高揚してきた。8ピッドは近い未来を想像する。人間が8ピッドに感謝する姿だ。
「たくさんの愛をありがとうございます、神さま」
　彼は、神の使い見習いから愛の神に奉られている。「フッフフフ　まいったなぁー」と、彼は思い掛けず笑い声がこぼれた。
　午後6時、開店時間になった。彼はだれがやってくるか、とワクワクしながら玄関を見つめた。営業時間は午後6時から深夜0時まで。日中はこの店の存在が人間には見えない。太陽が落ち、暗くなる時間帯、この店に照明がともされる。その灯りに吸い寄せられるように、愛に飢えた子羊が愛を求め店に迷い込む。店の外観は愛に飢えた子羊にしか認識できない。なぜなら、ここは愛の伝導と普及の最前線店舗だからだ。「さぁー　地上に愛の種をまくときがついにやって来た」と、彼が気勢を上げるが、待てど、子羊は訪れない。8ピッドは開店からすでに1週間、ショーウインドウを磨くだけの日々を続けていた。
「きょうも閑古鳥が鳴くのか？　どうしたことか？　みな、愛がほしくないのか？」
　彼は両腕を大きく上に伸ばし、大きな欠伸をすると、ショーウインドウを磨き始めた。
　彼が、外に視線を移すと、一人の女声が窓越しに店内を見つめているのが見えた。「おお、かわいらしい女性だな？　仕事の帰りだろうか」と、8ピッドはショーウインドウを磨く手を止めて女性の動向を注視した。彼女は思い詰めたように、じっと店内のショーケースを見つめている。彼はヒトメボレに吸い寄せられてきた子羊に違いない、と直感した。彼は店長室のデスクに向かうと、A4サイズの紙とフェルトペンを机に出した。彼は立ったままの姿勢で、紙に文字を素早く書き込んだ。「よし」と、声を上げると、店長室を飛び出し玄関のドアを抜けた。女性はまだ窓際に立って中をのぞいていた。彼は玄関の脇に立ち、壁に紙を張り出した。女性が彼に気付き、近づいてきて張り紙を見た。