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トライアングルパートナー

第7章 小山内慶子

 進一は言いがかりをつけてしまったようで穴があったら入りたかった。ごまかそうと、ゲームに興味はなかったが店員の機嫌を取るため、ゲームの話に話題を向けた。
「そうですか、2階がプログラムの研究所ですか、そう言えば、昨日、このラブゲームの説明を聞きそびれましたので、きょうはそのお話をお聞きしたくて、伺った次第です」
 進一は訪問した要件が違反建築だとは、冗談に決まってるでしょ、と言うかのごとく、話題を変えていた。そんな後ろめたさもあり、店を出たときには、リア・ラブゲームアプリ付スマホの説明を詳しく聞かないで、売買契約書を記入しスマホを手にしていた。

 そのゲーム店のスマホを慶子が購入して、こういう状況になるなら、あの店員のアプリの説明を詳しく聞いておけばよかった、と彼は後悔していた。
 進一はゲーム店員の言う恋に飢えたものにしか見えない製品と言う言葉が心に重くのしかかっていた。僕は愛に飢えているのか。最愛の妻である純子がいるのに。しかし、モテモテの慶子があのスマホを認識することができたのが不思議だった。愛を注がれている慶子が見える。注がれてもそれを愛と感じなければ、愛で満たされないのだろうか。それとも、だれでもあのスマホを見ることができて、スマホに神秘性を持たせるために店員が作ったホラ話かもしれない、とも思った。
 進一は慶子を見つめながら、最近、変なことが起き過ぎているよ、とつぶやいてから頭を振った。その進一の様子を見ていた慶子は、周囲を見回してから席を立つと、紫の唇と青白いパックをした病人のような生気のない顔で進一に近づき、幾分前屈みになって顔を寄せて来た。進一と顔が付きそうなくらいになってから口を開いた。
「このスマホを使えば、意中の人を振り向かせることができるのです。そして、二人は永遠に結ばれる運命的なリア・ラブゲームで一生を過ごすことができるのよ、すごいでしょ?」

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