ナカまで愛でてトロトロに溶かして
第7章 【譲れないもの】
章介と別れてから掛け直すと
「今すぐ次回作のネーム見せろ!」と怒号の第一声が耳に飛び込んで来た。
「え?ネーム?早くないですか?」
__今すぐ行くから用意して
「えっ!?今!?」
それだけ言ってブチッと切れた。
お、怒ってる?なんで?
とりあえず章介が居た痕跡は跡形もなく片付けた。
すぐにインターホンが鳴って開けたけど。
玄関入ってくると突然キスしてくるんだもん、怖いって。
まだ煙草の匂いや汗の匂いがしない朝の鍵山さん。
力の限り押し返したらギュッと抱き締められて、少し震えてる気がした。
「昨日、見た、他の男と居るところ」
「え……?」
章介と居るところって……まさか駐車場?
あの一部始終見られてたって事?
あぁ………完全にクロだね。
言い訳とかそんなんじゃなくて、そろそろ終止符を打たなきゃなって考えてたりしたらまた怒るのかな。
「何で俺じゃないんだよ……何でよりによって元彼に絆されてんだよ」
初めて見た、鍵山さんのこんな曇った顔。
いつもの覇気がない。
よく見たら髭も。
「元彼じゃなくて……元旦那」
どうでもいい訂正をしてしまう私は救いようのないタラシかも…なんて。
「俺だって見てきてんだよ、腹黒いお前も弱いお前も全部……」
わぁ、面と向かってディスってきてる。
肩に頭を乗せてきて大きな溜め息。
「はぁ〜俺、格好悪………」
「あ、あの、鍵山さん」
「ストップ、まだ何も言わないで……心の準備出来てない」
「は、はい……」
ずっとこのまま?
スーツ着てるから今日も仕事のはず。
抱えてる漫画家は私だけじゃないのに。
「俺はタカラアキをもっと有名にしたい」
「はい……頑張ります」
「本当はプライベートも全部支えていくつもりだった、今もその気持ちに嘘はない……俺じゃダメなの?一番にはなれない?」
「あ、えっと………」
顔を上げてきたので至近距離で見つめ合う形に。
「お前みたいな女、他探しても居ねぇんだよ」
「ま、またまた……鍵山さんなら引く手あまたでしょ」