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第1章 0

「ごめんね、なんも無いけど」

部屋に入ると男性の部屋という感じがした。

一組の布団と、座卓、テレビ。キッチンも調理器具はほとんどない。

「いえ……」

私は座卓の前に座り、彼を盗み見た。

丸顔で眼鏡をかけていて、目は細くて少し小太りな彼。熊さんのような体型に私は癒されるものを感じていた。

「えっと、珈琲は苦手だっけ? 紅茶の方が好きだよね? 」

何も無いと言いながら、紅茶を用意しようとする彼。それが少し嬉しくて。

でも、私はそんな準備をする彼の背中にそっと、しがみついた。

「会いたかった……です」

ぽつり、と零す私の言葉に彼はその手を止める。

「……僕も、なんて言ったら信じてくれる? 」

柔らかめの少しだけ高い声。優しい声音に私は心が踊ってしまう。それがたとえその場限りの言葉だとしても。

「はい……泣いて喜びます」

大袈裟だと思われるかもしれないが、私はそれくらいの嬉しさはあった。彼は振り返り、そっと私に視線を合わせる。

絡み合う視線、唇がずっと目の前まで迫っていた。チュ、と触れるだけの口付けをされる。

「実際に。会って幻滅してない? 僕のこと」

額を合わせて、甘く聞かれる。電話越しで聞いていた声と同じで安心してしまう私。

首を横に振り、鼻先を合わせる。淡いミントの香りが鼻をくすぐった。

「するわけ……ないです」

そう呟いて、私からもそっと口付けをする。彼の唇の感触が柔らかくてたまらなかった。

「それなら、よかった……」

フッと微笑むと彼の身体に抱きしめられる。しばらく。その状態でいると彼はそっと離れて、私を布団の方に誘導した。

「ももちゃん、本当に僕が初めての相手でいいの? 」

ぽつり、そう不安そうに聞かれた。

私はこくり、と頷いて、顔を伏せる。恥ずかしくはしたないことなのは、理解している。

彼は私の前に正座して座るとそっと頬を撫でてきた。彼の指が頬を掠め、私の瞳を射すくめるように見つめる。

琥珀色の柔らかい色の瞳が私の暗い瞳を見透かすように覗き込むから。私は身動ぎひとつ出来なくなる。

「か、覚悟は決めてきました。凡さんに貰ってもらいたい……です……」

そう呟いて彼を見つめると、彼は真剣な顔をしてこくりと頷いてくれた。

「うん……ももちゃん……気持ちよくした後に、貰うからね?痛くさせない、乱暴にしないから」

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