テキストサイズ

能里子見聞録

第3章 高校の想い出

 わたしの高校時代の同級生の話です。同級生と言っても、男子なの。今は奥様もお子様もいるんですけどね。わたしとの関係は…… ふふふ、ご想像にお任せするわ。

 わたしの通っていた高校は、ちょっと郊外にあったの。あ、今もそこにあるんですけどね。

 自転車通学も多かったけど、大半はバス通学だったわ。自転車組も、天候が悪い時にはバスを利用していた。その彼……名前を「能里男(のりお)くん」とでもしておくわね……、基本は自転車通学だった。ただ、その日は、台風接近で前日の夜から雨だった。

 そんな時は学校を休めばいいんだろうけど、当時のわたしたちには考えつかなかったのよね。学校へ行く事が当たり前だったから。

 それで、能里男くんはバス通学をする事にしたわけ。

「いつも一人で風切って自転車で学校へ行っていただろ? 途中でちょっと寄り道したりなんかして、遅刻ギリギリだったりしたけどさ、それはそれで自由な感じで好きだったんだよな」

 能里男くんは、そう言っていた。何だかロマンを感じるわね。わたしはずっとバス通だったわ。親が自転車通学をさせてくれなかったの。……ふふふ、こう見えて、わたしって箱入り娘だったのよ。表向きはね。

 だから、能里男くん、バスについて文句を言っていたわ。

「あんな一つの空間に押し込められちゃってさ、窮屈だってぇの。それにさ、普通の乗客だっているんだぜ? それなのに、ぎゃあぎゃあうるさくしてさ、オレたちの学校、バカばっかりって思われちまうぜ。ま、実際それに近いけど……」

 それでも乗らなきゃならない時は乗らなきゃね。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ