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艶的日本昔話

第3章 節分の鬼

 突然鬼が戸を蹴破って入って来た。

 鬼は、頭に二本の角を生やし、ごわごわで茶色い髪の毛を逆立て、てらてら燃え上がるような赤い眼を光らせ、息音高い大きな獅子鼻をひくつかせ、頬と口の周りに伸びた無精髭をざわざわとうねらせ、下顎の犬歯が鋭く上唇の上に突き出し、筋骨隆々で天井の梁に届きそうな赤い巨躯に虎革の褌を締め、右手にはごつごつした大きな鋲が幾つも埋め込まれている赤黒く変色した太い金棒を持っていた。

 のんびりと晩飯を食っていた太助と女房のとみは驚いた。

 しかし、あまりの事に腰が抜け、立つ事ができなかった。

 鬼はじろりと太助をにらみつけた。

 土間をずしんずしんと地響きを立てて歩き始める。

「わっ、たっ、とっ!」

 太助は声にならない声を上げた。
 
 目を鬼から逸らす事ができない。

「はひ、はひ、はひ、は……」

 鬼が太助の前で立ち止まり、上がり框に片足をかけた。
 
 みしみしみしと框が鳴る。

 巨躯を乗り出し、ぐぐっと太助に顔を近付ける。

「おい、おまえ……」

 目の前で寺の鐘を撞いたような大音声が鬼の口から発せられた。

「ちと、どけ!」

「はっ、はっ、はっ……」

 太助は場所を移動しようとするが、腰が抜けていて、しかもぶるぶると震えてしまい、手に全く力が入らない。

 傍からは手を必死に床板にこすり付けているだけにしか見えなかった。 

「早く、どけ!」

 鬼が怒鳴った。

 その声の勢いで太助は転がり、壁板にぶつかった。

 鬼は満足そうにうなずいてみせる。

 そして、囲炉裏を挟んで向かいで腰を抜かしているとみをにらみつけた。

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