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艶的日本昔話

第3章 節分の鬼

「おい、おまえ……」

 鬼はとみを手招きをする。

「こっちへ来い」

 とみも腰が抜けている。

 太助と同じように手で床板をこすっているだけだった。

「さっさとしろ!」

 鬼は言うと囲炉裏越しに手を伸ばし、とみの胸倉を掴んで持ち上げ、自分の胡坐を組んだ足の上におろした。

 腿の上に座らされたとみは呆けた面差しで鬼の顔を見上げていた。

 突然、ばらばらばらと音がして、鬼に何かぶつけられた。鬼は振り返る。

 やっと立ち上がることのできた太助が、枡に盛った煎り大豆を鬼に投げつけていたのだった。

「お、鬼はぁ、外ぉ!」

 太助はほとんど悲鳴に近い叫びを上げながら枡の豆を掴み取ると鬼にぶつけた。

「鬼はぁ、外ぉ!」

 鬼は立ち上がった。

 はずみでとみは床に転がる。

 鬼は太助をにらみつけたまま近寄る。

 追い詰められた太助は壁板を背にして豆を投げつけ続けた。

 しかし、枡は既に空になっていた。

 それにも気づかず、太助は豆撒きの動きだけを繰り返している。

「なんのつもりだ? 節分だからとて、そんなものが効くと思うてか!」

 鬼は怒鳴ると太助から枡を取り上げ、硬く尖った爪が長い親指と人差し指で挟んだ。

 ちょっと指が動くと、枡はばらばらの木屑になって床板の上に落ちた。

「福の来そうもない家で何を叫んでも効き目など無いわ!」

 鬼は太助の頭に手を乗せると、床に向かって押し付けた。

 ばりばりばりばりと床板が割れ、太助はそこに埋まっていった。

 鬼が手を放すと、床板から太助の頭が出ているだけになっていた。

 太助は「鬼はぁ、外ぉ! 鬼はぁ、外ぉ!」と呆け者の様にしばらく繰り返し、息絶えた。

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