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墓守は眠らない

第1章 三日月の章

「なにっ!? 今の音なに!?」


 男女は繋がったまま硬直する。


「……な、なんでもねーよ……ただの鳥だろ……」


 そう思って再び動こうとした男は、車の窓に貼り付く黒い化け物と目が合ってしまった。


「う、うわあああああっ!!」


 その化け物は巨大な黒い塊で、人間の手足がいくつも生えていた。しかもギョロっとした目が何個もついており、明らかにこの世のものではない。その後、若い男女は行方不明になったという──。


「……ってそれ、絶対作り話だろ? 行方不明になったのに、なんでお前が詳しく知ってんだよ」


 高校の教室で、同級生の檜山(ひやま)から怪談話を聞いていた霧島 虎太郎(きりしま こたろう)は頬杖をついたまま大きなあくびをした。


「噂だよ、噂。てか虎太郎も気になるだろ? 夜中、墓地に行けばカーセックスが見られるかもしんねーぜ?」

「お前……その名前を二度と口にするんじゃねえっ!」


 霧島虎太郎、十七歳。
 彼は寺の息子として育った。両親から「虎太郎」と名前をつけてもらったが、小学校高学年辺りに好きな女の子から「変な名前」と笑われてから、自分の名前にコンプレックスを抱くようになった。以来、下の名前で呼ばれると周りが引くほどキレるのだ。ただし、親は別だ。


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