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デーモンハント

第4章 主従

今までは運が良かっただけなのだと、エルザは知って、手が震えた。

「あ……ソレル」

名前を呼ぶが、床に転がされたソレルは反応を返さない。
エルザは絶望したのと同時に、ソレルを襲った化け物への憎しみが湧き上がる。

エルザの鋭い視線を向けられた化け物は、動きを止めて、両手で口元を隠すようなポーズをしていた。

化け物は口に含んだソレルの肉の味に、驚き、目を見開いていた。

(何だ?過去にこんな味の肉になど、出会った事がない!上手い!もっと、欲しい!)

狼頭の化け物の思考は、極上の味に魅了され、肉に支配される。
そんな事を知らないエルザは、感動している化け物の膝を切りつけた。
化け物のひざ裏から血が滴り、がくりと崩れ落ちる。

「もっと、もっと肉を!」

エルザに切られ、足が馬鹿になりながらも、化け物はソレルの方へと這いずっていく。
思考が食欲に支配された化け物は、完全にエルザを無視していた。

「行かせるわけ無いでしょ!」

エルザが声を荒らげ、鎌を振り上げる。
そして化け物の口に鎌を掛け、一気に引いた。

口を切り裂かれ、化け物の動きが止まる。
化け物の血がドバドバと溢れ、床に血溜まりを作った。
エルザは筋肉を裂かれて開いたままになった化け物の口に足を突っ込み、上顎に手を掛け、足に体重をかけた。

化け物の口はエルザに裂かれ、傷が首までに達する。
そして化け物はその場に倒れ込んだ。

化け物の返り血を浴びながら、エルザはふらりとソレルの方に向かう。

「……ソレル?嘘でしょ?」

駆け寄りたい気持ちはあったが、足に力が入らず、ゆっくりとしか進めない。
手を伸ばし、ソレルに触れられそうになった時。

床から無数の黒い手が生え、ソレルを捕らえた。

「ソレル!」

慌ててエルザがソレルの手を掴まえようとするが、その前にソレルは黒い手によって、地面の中へと吸い込まれる。
あと少しというところで、エルザの手は届かなかった。

エルザはその場に座り込み、歯をぎりっと鳴らす。

「……ふざけた事するじゃない……アタシからソレルを奪うなんて」

怒りのあまり手を震わせながら、エルザは呟いた。

「待ってて、ソレル、すぐ迎えに行くから」

そう言って、エルザは鎌を握って立ち上がった。

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