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デーモンハント

第5章 傷

何も言えないエルザは、シフォンに身体を寄せた。

シフォンも馬鹿では無い。
その沈黙の意味が何なのか、すぐに理解できた。

仮面の悪魔は生きている。

知ったシフォンは、涙をボロボロと流しながら、自分を抱き寄せるエルザにしがみつく。

「どうしたのですか?」

二人が抱き合っている所に、ソレルが駆け足で戻って来た。
エルザは何も言わず、そっとシフォンから離れる。
ソレルは二人がいるベンチの近くに来ると、空気中に残る悪魔の香りに気付いた。

「……あ」

何が起きたのか、想像ができたソレルが声を漏らす。
エルザは立ち上がり、ソレルのことを見た。

「早く帰ろう、ソレル」

静かにエルザが言い、ソレルは頷く。
ソレルはエルザに荷物を渡すと、涙が止まらなくなっているシフォンをおぶった。
そして三人は足早に家へと向かって歩きだす。



家に着いたエルザは、リビングルームにいた。
エルザとシフォンの部屋からソレルが出てくる。

「ソレル、シフォンは?」
「眠っています、かなり疲れていたのでしょう」

ソレルは微笑んで、キッチンに向かうと、手際よくコーヒーの準備を始めた。
コーヒーミルの豆を砕く音が室内に響く中、エルザは爪を噛む。

シフォンの事が心配で、どうしようも無かった。

「仮面の悪魔さん、大胆ですね」

ソレルはコーヒーを淹れながらそう言う。

「大胆どころじゃない、最低だわ」

エルザはチッと、舌打ちをする。
ソレルは砂糖とミルクをコーヒーに入れて、スプーンでかき混ぜた。
そしてそれを持ってエルザの前に置く。

「少し落ち着きましょう」

ソレルに言われ。

「そうね、有難う」

と、エルザは返す。

エルザは甘いコーヒーを一口飲んで、息を吐いた。

「シフォンに接触してきた以上、野放しにはできない。何としても居場所を見つけて殺さなきゃ」

エルザは険しい表情で言う。
そんなエルザを見ながら、ソレルは砂糖もミルクも入っていないコーヒーを飲む。

「このままでは、いつまでもあの娘は外に出られませんしね、家にずっと籠るのは体によくありませんし」

ソレルはそう言って、マグカップの中で揺れるコーヒーを見つめた。

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